古からの信仰の道を辿り「忘れずの山」の頂へ ~蔵王 登山ガイド~

夏の山

2020年5月24日(日)、宮城県内では外出自粛要請はすでに解除されており、お天気にも恵まれたこの日、ドライブを楽しむ方、バイクを楽しむ方、自転車を楽しむ方、写真を楽しむ方、山歩きを楽しむ方、残雪でスキーやスノーボードを楽しむ方など「蔵王」は多くの人々でにぎわっていた。

ご存知の方も多いと思いますが「蔵王山」という名前の山は無い。
山域全体の総称として「蔵王」と呼ぶのが一般的だ。「蔵王」の最高峰は「熊野岳1841m」であり山形県に属する。また蔵王で宮城県側の最高峰は「屏風岳1825m」となる。

蔵王のシンボル「御釜」付近だけでも「刈田岳」「名号峰」「五色岳」など名のある山(ピーク)が存在し、さらに「南蔵王」「北蔵王」の山々も含めた広大な山域には名のある多くの山が存在する。今はそれらの総称として「蔵王」という呼称が残っている。
注:御釜の画像は2019年9月に撮影したものです。

さて、宮城の登山ガイドJ.miuraが今回ご紹介する山歩きは「蔵王古道」と呼ばれる大昔から歩かれてきた「道」。
「蔵王」の名称は、修験者が「金剛蔵王権現」を祀ったことに由来し、この「道」は多くの修験者たちの長きにわたる修行よって開かれていったものだ。

江戸時代中期以降になり人々の生活にゆとりが出てくると、修験者の道は信仰登山「御山詣り」として一般庶民にも広がり、それは今でいう旅行ブームのようなものになっていったと言われる。
しかし、明治政府による神仏分離、修験道廃止などにより次第に衰退していく。

数年前、長く廃道になっていたこの道を「蔵王古道の会」の皆様や多くの関係者の方々によって整備され復活しました。「先人への感謝の気持ち」「無病息災」「コロナ終息」を願い、修験者になった気持ちで心を込めて歩かせていただきました。
今回もちょっとだけその魅力をお伝えしたいと思います!

蔵王町の遠刈田温泉街にある「刈田嶺神社 里宮」。
ここが「蔵王古道」のスタート地点です(駐車場もすぐ近くにあり)。
準備体操をして参拝してから歩き始めましょう。

車道を2km弱歩くと蔵王エコーライン入口「大鳥居」に到着。立ち止まってあらためて見るとやはりデカいです。刈田嶺神社里宮からここまで約30分、ちょうどいいウォーミングアップ。ここで小休憩をとると良いでしょう。「蔵王古道」歩きでは、車道の横断や車道歩きが何回かあります。自動車、バイク、自転車も多く通りますので十分注意してくださいね。

大鳥居のすぐ先に「濁川」があります。この川、なんで「濁川(にごりがわ)」という名前が付いたのでしょう。この水がどこから流れてくるのかを調べてみると、その答えが解るかもね。

これが「蔵王古道」の案内板です。
番号が付けられており、ここは2/31、つまり2番目。番号は全部で31番まであります。ちなみに、1番はさっきの「大鳥居」、スタート地点の「刈田嶺神社里宮」は0番です。

車道から登山道へと入るところ。このように案内板やガイドテープが付いていますが、話に夢中になったりしていると見失うこともありますので注意してくださいね。

5月は新緑が美しい季節、心身ともに癒される登山道です。この登山道の画像をよく見て頂きますと、アスファルト道になっているのが確認できます。
コレはいったいどういう道だったんでしょうね?
答えは教えませんので、実際に行ってご自身で探し見つけて感じてみてください!

ヘンな形のブナ発見。この登山道の見所になるかもしれませんね?すでに見所になっているかな?しかしなんでこんなヘンな形になったんでしょうかねぇ?実際に訪れて想像してみるのは楽しいですよ~

こちら「お不動さん」。
蔵王エコーラインを車で走行中、車窓から見ている方はとても多いのではないでしょうか?「蔵王古道」はお不動さんの後ろへまわり込んで続いています。画像はありませんがこの日この先「ムラサキヤシオ」とてもきれいに咲いていました。

「蔵王古道」歩きはさらに続き、峩々温泉への分岐~雲湧谷を経由してすみかわスキー場付近に出ます。
この間も登山道沿いには人工物が突然現れたりして何なのか気になります(画像はありませんm(__)m)

ここは「賽の河原」への入口にある駐車場&トイレ。久しぶりに来てみたら新しいトイレが設置されていた。万一の噴火の際には避難場所としても使えるように、強固な造りになっているようです。きれいに使わせて頂きましょうね。

そういえばっ!今から20年以上も前の話になりますが、私が初めて「熊」に遭遇したのもこの場所でした。確かその時は「賽の河原」から「かもしか温泉跡」経由で「ロバの耳」を目指して歩いていたかと。
歩き始めて10分弱位だったろうか、目の前約25m先に大きな真っ黒い物体が…
一瞬、私の体の動きが止まった。

<熊との遭遇 当時のJ.miuraの心の声>

「ん…? なんだアイヅ…? 」
「く、く、く クマだべやぁぁぁー!!!」
「なじょすっぺ! 行ぐか、退ぐか、ほだもの退ぐに決まってっぺっ!」
「ソッコーで逃げっか! バガヤロー、急いで逃げだらアイヅは追っかげでくんだよ!」
「アイヅ、ジッーとこっち見でさっぱり動ぎもしねー」
「ん、んだっっっ! 確かこいなどぎは、にらめっこしながらゆっくりど下がってが~」
「刺激すねで、コソ~っと、コソ~っとな~・・・」 

確か、こんな感じで何とか逃げ切れたのでした!メデタシ!メデタシ!

ここが熊との初遭遇の地「賽の河原」。すぐ近くに「三途の川」もあります。登山をしていると仏教的な言葉を用いた「地名」をよく目に耳にすることがあります。修験道や仏教の特に密教は日本の登山の歴史を語る上では切り離すことはできません。

あちこちの御山で役行者さん(修験道)、空海さん(真言宗密教)、円仁さん(天台宗密教)、などの伝説はよく聞きますよね?日本の登山の歴史の話はとても奥が深く、解り易くご説明することはとても大変で難しいので、ここでは多くは語りませんm(__)m。
あと日本の登山と西洋の登山では始まり方が違うのです。こちらもいつかお話しする機会がありましたら…。

注:賽の河原~大黒天の間は広いガレ場と残雪があります。登山道はわかりにくいのでご注意ください。この日、「三途の川」徒渉点にも多くの残雪がありキックステップで歩きました。この付近ガイドテープがあまり無いのでルートファインディングが必要です。

こちらは、大黒さまと弘法さま。ここは「大黒天」と呼ばれる刈田岳への登山口です。大きな駐車場もあり登山者だけではなく多くの観光客が訪れています。
「蔵王古道」歩きもここからがクライマックスです。大黒天を過ぎ歩き続けると、正面には刈田岳が、左手側にはオオシラビソの林と南蔵王が、この日はガスで見えませんでしたが右手側には濁沢と荒々しい火山風景が見られます。

この日、正面に見えた残雪の「刈田岳1758m」。
この残雪部分は「井戸沢の源頭部」。今年は滑り足りなかったのだろう、スキーヤー、スノーボーダーの方々が多くいらっしゃった。
この井戸沢、厳冬期は大きな雪庇ができ雪崩の要注意ポイントでもあるが、雪質が安定していれば最高の斜面だ!残雪期にはアイゼン&ピッケルワークの訓練にも良い斜面である。

石段が出てくると山頂まであとわずかだ。レッドツェッペリンの「天国への階段」を思い出す・・・

石段を登りきると「刈田避難小屋」がある。
蔵王の避難小屋はこの他に、「熊野岳避難小屋」「蔵王レストハウス内避難小屋」「刈田峠避難小屋」「御田神避難小屋」「八方平避難小屋」がある。蔵王を訪れる際には、避難小屋の場所をよく地形図で確認し緊急時に備えましょう!
また避難小屋はあくまでも緊急時に使用する為のものですので、十分にご理解の上でご使用くださいね。

刈田避難小屋付近からみた南蔵王縦走路方面の風景。残雪とオオシラビソ(アオモリトドマツ)のコントラストがとても良いですね~。南蔵王縦走路は、蔵王屈指の名ルートで、刈田峠~前山~杉ヶ峰~屏風岳~南屏風岳~不忘岳へと続きます。6月頃から素晴らしい高山植物に巡り合うことができますよ!「今年もいがねどなっ!」

もう山頂直前!「刈田嶺神社奥宮」の屋根が見えています。ここまでくると観光客の方が多くなります。観光客が入ってしまうので良い角度での写真が取れませんでした。ちなみに蔵王のシンボル「御釜」もこの日はガスの為によく見えませんでしたので写真はありませんm(__)m。

ココが「蔵王古道」の目的地、「忘れずの山の頂」、2020年5月24日、無事完歩です!ちなみに「蔵王古道」の案内板には31/31と書いてあります。注:「忘れずの山」とは蔵王の古称です

ちなみにこちらは厳冬期の「忘れずの山の頂」です。今度は厳冬期「蔵王古道」完歩にもチャレンジしてみたいね!

蔵王、宮城の登山ガイドは、宮城蔵王ガイド協会認定ガイドでもありますJ.miuraまで!

<今回のコースタイム>

刈田嶺神社(里宮)6:30~大鳥居6:55~不動尊8:45~峩々温泉分岐付近9:05~すみかわスノーパーク入口付近9:50~賽の河原トイレ10:40~大黒天(浄土口)11:45~刈田嶺神社(奥宮)刈田岳山頂12:45

注:休憩時間は合計で30~40分程度。GPS不調でしっかり記録が取れませんでしたが、歩行距離約14km、標高差約1400m、行動時間6:15となかなか歩きごたえあるルートです。体調を整え、十分トレーニングをつんでチャレンジしてください!参考までにコースタイムを掲載していますが、ご自身の体力に応じて十分ゆとりを持ってくださいね。

By 宮城の登山ガイド「J.miura」
J.miuraは「登山道 三浦流」を極めるべく、今日もまた歩き続けています。
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